「遺言」が必要なのは誰?

1.遺言を残すべき人とは?

遺言とは、私たちがこの世を去るときに、自分の財産をどのように扱い、誰に何を残すかを、生きている間に決定し、記録する手段です。しかし、遺言を残すことの重要性は、まだ多くの人々に十分に理解されていないようです。遺言は、私たちが亡くなった後に起こり得るさまざまな問題を未然に防ぐための強力なツールです。それは、相続人同士の争いを防ぎ、私たちの「思い」を正確に伝えることを可能にします。特に、一部の人々にとっては、遺言を残すことが非常に重要になります。それでは、具体的にどのような人々が遺言を残すべきなのでしょうか?このコラムでは、その問いについて詳しく見ていきます。

2.対象者の一例

遺言を残すことが特に重要となる人々をいくつか紹介します。まず、大きな財産を持つ人々です。これらの人々は、財産の分配が複雑になる可能性があります。次に、遺産の大部分が自宅(不動産)であり、現預金が少ない場合です。相続人が多いと、公平に分割することが難しくなります。3つ目に、複雑な家族構成の人々です。再婚や離婚、子供の有無など、家族構成が複雑な場合、遺言が相続の混乱を防ぐのに役立ちます。4つ目に、事実婚の夫婦の場合です。日本の法律では事実婚のパートナーは法定相続人とされていないため、遺産を受け取ることが難しくなります。最後に、特定の人に財産を遺したい人々、あるいは反対に、特定の人に財産を遺したくない人々です。これらの人々は、遺言を通じて自分の思いを明確に伝えることができます。

※遺言により特定の人に遺産を残さない旨を明記しても、その特定の人が遺留分の請求を行う可能性が存在します

3.具体的な事例

それぞれの対象者について具体的な事例を見てみましょう。

大きな財産を持つ人々の場合、遺言がないと、財産の分配についての争いが起こる可能性があります。例えば、Aさんは大きな不動産を持っていますが、遺言を残していないため、Aさんが亡くなった後、その不動産をどのように分配するかについて、子供たちの間で意見が分かれ、争いが起こりました。

次に、遺産の大部分が自宅の土地・建物で、現預金が少ない場合。Bさんは生前、自身の所有する家に長男家族と同居していましたが、不動産以外に資産が少なく、お亡くなりになった後、相続人であるBさんの長男・長女・次男の間で、Bさん名義の家をどのように分割するかで意見がまとまらない状況が生じました。

3つ目の複雑な家族構成の人々の場合、遺言があると、相続の混乱を防ぐことができます。例えば、Cさんは再婚しており、前の配偶者との間に子供がいます。Cさんは遺言を残し、自分の財産をどのように分配するかを明確にしました。その結果、Cさんが亡くなった後も、家族間での争いは起こりませんでした。

4つ目の事実婚の夫婦の場合、Dさんとそのパートナーは事実婚の関係にあり、Dさん夫婦の間には子どもがいません。さらに、Dさんのパートナーの両親もすでに他界しています。このような状況では、法定相続人はパートナーの兄弟姉妹になります。そのため、兄弟姉妹全員が同意した遺産分割協議書を作成しないと、財産の処分ができないという事態が起こりました。

最後に、特定の人に財産を遺したい人々の場合、遺言を通じて自分の思いを明確に伝えることができます。例えば、Eさんは生前、身の回りの世話をしてくれた特定の親戚に自分の財産の一部を遺したいと考えていました。Eさんは遺言を残し、その思いを明確にしました。その結果、Eさんが亡くなった後、その親戚は適切に財産を受け継ぐことができました。

4.遺言作成の手順

遺言を作成する際には、いくつかの基本的な手順と注意点があります。まず、自分が遺したい財産と、その財産を誰に遺すかを明確に決定します。次に、遺言の形式を選びます。主に公正証書遺言と自筆証書遺言の2つの形式があります。

公正証書遺言は、遺言者から口授した内容をもとに公証人が作成し、その内容が公証役場に保管されます。この形式の遺言は法的な効力が強く、遺言の内容が守られる可能性が高いです。ただし、2名の証人の立ち会いが必要で、公証人への手数料等が必要になります。

一方、自筆証書遺言は、自分で書き、署名し、日付を記入することで作成できます。この形式の遺言は手軽に作成でき、費用もかかりません。しかし、紛失や第三者による改ざん、意図的な破棄の可能性があります。また、保管場所や遺言の存在を周りの人に知らせなかった場合、遺言が発見されないおそれもあります。さらに、法律知識がない方が自筆証書遺言を作成した場合、法的な要件を満たさないために遺言そのものが無効となる可能性もあります。

どちらの形式を選ぶかは、自分の状況や希望によります。遺言を作成する際には、専門家の助けを借りることも考えてみてください。そして、遺言が自分の思いを正確に反映していることを確認し、必要に応じて更新することも忘れないでください。

5.まとめ

このコラムを通じて、遺言を残すことの重要性を理解していただけたことと思います。遺言は、私たちの思いを正確に伝え、相続における混乱を未然に防ぐ有効な手段です。特に、大きな財産を持つ人々、遺産の大部分が自宅である人々、複雑な家族構成の人々、事実婚の夫婦特定の人に財産を遺したい、あるいは特定の人に財産を遺したくない人々にとって、遺言を残すことは非常に重要です。

しかし、遺言を作成することは、一人で行うには難しい場合もあります。そのため、専門家の助けを借りることをお勧めします。そして、遺言が自分の思いを正確に反映していることを確認し、必要に応じて更新することも忘れないでください。

遺言を残すことで、私たちの思いが正確に伝えられ、愛する人々が未来に向けてスムーズに進むことができます。遺言作成への一歩を踏み出すことを、ぜひご検討ください。

※遺言により特定の人に遺産を残さない旨を明記しても、その特定の人が遺留分の請求を行う可能性が存在します。

行政書士松尾事務所では、遺言者がお亡くなりになられた後に生じる可能性のある相続トラブルを防ぎ、円満な相続を実現するためのアドバイスや提案を行います。当事務所では遺言者の意思を尊重し、適切なアドバイスを提供することで、遺言者の希望する相続が実現できるようサポートします。

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